基礎解説
不動産投資の収支シミュレーションでは、家賃・空室率・金利を一点ではなく幅で置き、仮の数字で複数のシナリオを比べる考え方を整理します。
目次
不動産投資の収支シミュレーションは、置いた前提によって結果が大きく変わります。入力する数字が一つ違うだけで、毎年の手残りがプラスにもマイナスにもなり得るためです。この記事では、家賃・空室率・金利という三つの前提を、一点ではなく「幅」で置く考え方を、仮の数字を使って整理します。特定の物件や金融機関を勧めるものではなく、将来の数値を予想するものでもありません。
シミュレーションの前提は「一点」ではなく「幅」で置く
シミュレーションでよくあるのは、募集図面に載っている家賃、空室なし、現在の金利という「いちばん良い見え方」の数字だけで計算してしまうことです。しかし賃貸経営では、家賃は入居者が変わるたびに見直される可能性があり、空室は一定の割合で発生し、変動金利なら返済額も動きます。
そこで、前提は次のように三つの段階で置いておくと、判断の材料が増えます。
- 基準ケース:周辺の成約事例などから、現実的と考える水準
- 慎重ケース:家賃が下がり、空室が増え、金利が上がった場合
- 余裕ケース:基準よりやや良い場合(あくまで参考)
大切なのは、どれが当たるかを予想することではなく、「慎重ケースでも資金繰りが続けられるか」を事前に確かめておくことです。
家賃の前提:募集家賃と成約家賃を分けて考える
家賃の前提で注意したいのは、募集時に提示されている家賃と、実際に成約する家賃は同じとは限らない点です。また、新築時の家賃が、築年数の経過とともに同じ水準で続くとも限りません。
- 同じエリア・同じ間取り・近い築年数の物件の「募集中」と「成約」の両方を見る
- 入居者の入れ替わりの際に、家賃を見直す場面があることを織り込む
- 設備の古さが家賃に影響する可能性を、修繕費とセットで考える
家賃を何パーセント下げるかに決まった正解はありません。複数の幅(例えば現状のまま、5%低い、10%低い)を置いて、結果がどう変わるかを見るのが実務的です。周辺の調べ方は賃貸需要の調べ方の記事も参考になります。
空室率の前提:年間の稼働を月数で考える
空室率は「1年のうち何か月分の家賃が入らないか」に置き換えると、イメージしやすくなります。単身向けの区分では、入居者が退去してから次の入居者が決まるまでの空白期間と、その間の募集にかかる手間や費用が発生します。
仮に月10万円の物件で、年に1か月分の空室があれば、年間の家賃収入は120万円ではなく110万円です。空室率は約8%になります。さらに、退去時の原状回復や広告費などの費用が空室期間とは別にかかる場合もあります。
戸数が少ない物件ほど、空室が1戸出たときの影響は大きくなります。この点は物件の種類ごとの違いとして、区分マンションと一棟物件の違いの記事でも触れています。
金利の前提:返済額の幅を先に見ておく
金利は、借入の種類(変動・固定など)や契約内容で、返済額への影響の出方が異なります。変動型の場合は、将来の金利が変わる可能性を織り込み、複数の金利で返済額を試算しておくと安心材料になります。ここで将来の金利を予想する必要はありません。「この水準まで上がっても返済を続けられるか」を確かめることが目的です。
仮に借入2,000万円を35年・元利均等で返済するとして、年間の返済額は次のようになります(手計算と表計算で検算した概算値)。
| 金利(仮) | 年間の返済額(概算) |
|---|---|
| 1% | 約67.7万円 |
| 2% | 約79.5万円 |
| 3% | 約92.4万円 |
金利が2ポイント違うだけで、年間の返済額に約25万円の差が出ています。この差を家賃収入で吸収できるかが、前提を幅で置く意味です。返済の考え方は不動産投資ローンと金利変動リスクの考え方でも整理しています。
三つの前提を組み合わせた仮のシナリオ比較
次に、三つの前提を組み合わせた例を見てみます。以下はすべて架空の数字です。借入2,000万円、35年返済、満室時の家賃は月10万円、運営費(管理費・修繕費・固定資産税などの合計)は年24万円と仮定します。
| 項目(仮) | 余裕ケース | 基準ケース | 慎重ケース |
|---|---|---|---|
| 月額家賃 | 10万円 | 9.5万円 | 9万円 |
| 空室率 | 0% | 5% | 10% |
| 金利 | 1% | 2% | 3% |
| 年間の家賃収入 | 120万円 | 108.3万円 | 97.2万円 |
| 運営費 | 24万円 | 24万円 | 24万円 |
| 年間の返済額 | 約67.7万円 | 約79.5万円 | 約92.4万円 |
| 年間の手残り | 約28.3万円 | 約4.8万円 | 約−19.2万円 |
基準ケースの手残りは年5万円ほどで、慎重ケースでは年に約19万円の持ち出しとなります。このように、どのケースでも黒字という前提で計画していると、一部の条件が動いただけで資金繰りが崩れる可能性があります。なお、この例では所得税や住民税、大規模な修繕、退去時の費用は含めていません。実際の計算では別途の検討が必要です。
自分で数字を入れて試すには、不動産キャッシュフローのツールや利回り計算ツールが使えます。
考えるときの視点とリスク
前提を幅で置く方法にも限界があります。ここまでの内容を、判断の際の視点として整理します。
- 幅の置き方自体が主観的であり、実際の動きがその外側に出る可能性もあります。
- 家賃・空室・金利は連動して動くこともあります。単独の感度だけでなく、組み合わせも確認します。
- 慎重ケースで持ち出しになる場合、その不足分を何か月、手元資金で賄えるかを数字で確認します。
- 売却時の価格や、修繕・設備交換の費用は、毎年の収支とは別に考える必要があります。
- シミュレーションは判断の材料であり、結果を保証するものではありません。
前提の置き方や数字の扱いについて、当サイトの考え方は編集方針に記載しています。実際の投資判断は、ご自身の状況や契約書・重要事項説明書をもとに、必要に応じて専門家にご相談のうえ行ってください。
この記事について:「基礎解説」の記事です。内容は公的機関などの出典と照らして確認することを方針としています。投資助言ではありません。誤りにお気づきの場合はお問い合わせからご連絡ください。