基礎解説
目次
ワンルームマンション(区分マンションの一室)の投資は、少ない自己資金で始められるように見えます。一方で、国民生活センターには、強引な勧誘や説明不足をめぐる相談が寄せられています(国民生活センター、2019年公表)。この記事では、トラブルにつながりやすい「仕組み」を、公的な資料で確認できる範囲で整理します。特定の会社や物件の評価、将来の価格や家賃の予想は含みません。不安をあおる目的ではなく、契約前に確かめる項目を持つための内容です。
どんなトラブルが相談されているか
国民生活センターは2019年3月28日に、投資用マンションの強引な勧誘について注意喚起を公表しました。全国の相談データ(PIO-NET)によると、投資用マンションの相談は全体では2013年度が2,321件、2017年度が1,557件、2018年度が1,350件(2019年2月28日時点)と、減る傾向でした。一方、20歳代の相談は2013年度の160件、2017年度の339件から、2018年度(同時点)は405件へ増えています。

相談事例には、次のようなものが挙がっています。
- しつこい勧誘が怖くなり、契約してしまった。
- 街頭のアンケートをきっかけに勧誘され、契約した。
- 「家賃保証」と言われて購入したが、赤字になっている。
- 業者の指示で、ローンの申込みで虚偽の申告をしたが、返済できなくなった。
同じ資料は、長時間・深夜の勧誘やクーリング・オフの妨害が見られるとして、不動産関係の団体に法令の遵守を要望しています。
なお、確認できた最新の件数は上記の年度までです。それ以降の相談件数は、この記事を書いた時点では公的資料で確認できていません。
確認ポイント1:新築で買った価格と、売るときの評価の差
新築マンションの販売価格には、建物や土地の費用のほかに、販売のための経費や事業者の利益が含まれる、と一般に説明されます。そのため、買った直後に「中古」として売ろうとすると、購入価格より低い価格で評価される可能性があります。

確認の方法は、はっきりしています。
- 提示された価格を、同じエリア・同じような広さと築年数の物件の「成約事例」と比べる。
- 購入価格のうち、自分が売るときに戻ってくる金額が、ローン残高を上回るかを、年ごとに表にして確かめる。
- 「価値が落ちない」という説明は、断定ではなく、前提の置き方(エリア・時期)の話として聞く。
確認ポイント2:サブリース(家賃保証)の「保証」の中身
サブリースは、サブリース会社がオーナーから部屋を借り上げ、入居者に貸し出す仕組みです。空室でも一定の家賃が入るように見えるため、「家賃保証」と呼ばれます。

ここで確認したいのは、「保証」の中身です。国土交通省・消費者庁・金融庁のリーフレットでは、借地借家法により、契約書にどう書いてあっても、契約期間中や更新時に賃料が減額されることがある、と説明しています。また、業者の側から解約される場合があることにも触れています。最高裁判所の平成15年10月21日判決(平成12年(受)第573号)も、サブリース契約に借地借家法32条1項が適用されるとしました。減額が認められるかは、賃料が決まった経緯、近隣の賃料相場との関係、事業の収支予測、オーナーの借入金の返済予定などを総合して判断される、とされています。
こうしたトラブルを受けて、サブリースに関する規制が、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」で定められました。サブリース関連の規制は2020年12月15日に施行されています。
- 誇大広告の禁止(28条)と、不当な勧誘の禁止(29条)。サブリース業者だけでなく、勧誘をする建設業者や不動産業者も対象になります。国土交通省のガイドラインは、「家賃保証」などの言葉を使うなら、その近くに、定期的な賃料の見直しがあることや、借地借家法で賃料が減額され得ることを表示するよう求めています。
- 契約を結ぶ前の書面の交付と説明(30条)。ガイドラインは、借地借家法で賃料が減額され得ることも、契約前に書面で説明するよう求めています。
契約前に見るべき点は、次のとおりです。
- 賃料の見直しがいつ、どのように行われるか。減額の条項はあるか。
- オーナー側から解約できるか。会社側から解約されることはあるか。
- 免責期間(家賃が支払われない期間)があるか。
- 修繕費や設備の交換費用を、どちらが負担するか。
詳しい仕組みは、家賃保証・サブリースの仕組みとリスクでも整理しています。
確認ポイント3:シミュレーションの「前提」が甘いと、収支は簡単に逆転する
営業の場面で示される収支表は、「空室がない」「家賃が下がらない」といった前提で作られていることがあります。実際の収支は、次の費用や変動で変わります。

- 家賃:入居者が入れ替わるときに、周辺の相場に合わせて見直すことがあります。公的な統計では、投資用ワンルームの家賃の下落率は確認できていません。自分で幅を持って置くことが必要です。
- 管理費・修繕積立金:国土交通省の「令和5年度マンション総合調査」(分譲マンション全体の数字)では、修繕積立金の平均は月・戸あたり13,054円でした。積立方式は、段階的に増額する方式が47.1%、均等に積み立てる方式が40.5%です。計画に比べて積立額が「不足している」マンションは36.6%でした(残りは不足していない、または不明)。段階増額方式は、将来の値上げを前提としています。
- 空室:入居者が決まらない期間は、家賃が入らない一方で、ローンと管理費・修繕積立金は払い続けます。
- 金利:変動金利のローンでは、金利が上がると返済額が変わります。
確認の方法は、収支を「家賃が下がる・空室が出る・積立金が上がる」の悪い条件で、仮の数字で置き直すことです。空室リスクと家賃下落をどう織り込むか、収支計算で見落としがちな費用も参考にしてください。
確認ポイント4:「節税になる」という説明
不動産所得は、家賃などの収入から、固定資産税、保険料、修繕費、減価償却費などの必要経費を引いて計算します。不動産所得が赤字になると、原則として、給与所得など他の所得と通算(損益通算)して、税額を小さくできます。「節税になる」という説明は、この仕組みをもとにしています。

ただし、次の点は確認しておきたいところです。
- 帳簿上の赤字には、現金が出ていかない経費(減価償却費)が含まれることがあります。そのため、現金の収支は赤字でなくても、帳簿上は赤字になることがあります。損益通算で軽くなる税額は、赤字の額に税率をかけた範囲にとどまり、赤字の額そのものより小さくなります。「節税」は、毎月の現金の赤字を埋めるものではありません。
- 損益通算できない部分があります。必要経費に入れた「土地等を取得するための借入金の利子」にあたる部分は、損益通算の対象外です(国税庁 タックスアンサー No.1391)。
- 売るときに税金が出ることがあります。売却益(譲渡所得)は、売却額から取得費と譲渡費用を引いて計算します。建物の取得費は、購入代金から、所有していた間の減価償却費の分を差し引きます。償却した分だけ取得費が小さくなるので、売却益は大きくなりやすい仕組みです。これは、税金が「なくなる」のではなく、後になって出てくる(繰り延べに近い)という整理ができますが、国税庁がそう表現しているわけではありません。
- 売却時の税率は、所有期間で変わります。売った年の1月1日時点で5年を超えていれば、所得税15%・住民税5%、5年以下なら所得税30%・住民税9%です。このほかに、復興特別所得税が所得税額の2.1%かかります。
なお、2020年度の税制改正で、不動産所得の損益通算が制限されましたが、これは国外にある中古建物が対象です。国内の区分マンションには適用されません。「税制が変わって節税できなくなった」という説明を聞いたときは、どの制度の話かを確かめてください。
勧誘を受けたときの身を守り方
- 会う前に断れる。契約するつもりがなければ、会わない、電話を切るのが基本です。国民生活センターも、そうした断り方を勧めています。
- 「必ず儲かる」「確実」と言われたら、立ち止まる。宅地建物取引業法47条の2は、利益が確実であるかのように誤解させる断定的な判断の提供と、契約を結ばせるために相手を威迫することを禁止しています。
- ローンで嘘の申告をしない。収入や勤務先、他の借入を偽るよう指示されても、従ってはいけません。契約やローンに影響するおそれがあります。消費生活センターなどに相談してください。
- クーリング・オフを知っておく。宅建業者が売主の物件を、事務所など以外の場所で申し込み・契約した場合は、クーリング・オフができる場合があります(宅地建物取引業法37条の2)。書面で告げられた日から8日を過ぎる、または、物件の引渡しを受けて代金を全額支払うと、できなくなります。また、買主が自分から自宅や勤務先での説明を希望した場合は対象外です。必ず撤回できるとは限らないので、条件を確認してください。
- 困ったら相談する。消費者ホットライン「188」に電話すると、最寄りの消費生活センターにつながります。
消費者契約法による契約の取消し(不実告知、断定的判断の提供、退去妨害など)は、事業者と消費者の契約が前提です。投資目的の購入が「消費者契約」にあたるかは、個別の事情によって変わるため、この記事では判断できません。弁護士や消費生活センターに確認してください。

契約前のチェックリスト

| 確認すること | 見る資料・方法 |
|---|---|
| 価格は近隣の成約事例と比べてどうか | 同エリア・同程度の広さ、築年数の成約価格 |
| 売るとき、ローン残高を上回る価格で売れそうか | 年ごとのローン残高と、売却価格の想定の表(悪い条件でも) |
| サブリースの賃料見直し・解約・免責期間 | 契約前の書面(重要事項の説明)、契約書 |
| 修繕積立金の方式と、将来の値上げの計画 | 長期修繕計画書、管理規約、総会議事録 |
| 悪い条件での毎月の収支 | 家賃の下落、空室、積立金の増額、金利上昇を入れた試算 |
| 税金の見込み(毎年と、売るとき) | 国税庁のタックスアンサー、税理士への相談 |
| 勧誘の仕方に問題はないか | 長時間・深夜の勧誘、「必ず」の断定、書類への虚偽の記入の指示 |
「今日中に」「今だけ」と、急いで決めるよう求められたときは、急ぐ理由を確かめたうえで、一度持ち帰って、ここまでの項目を自分の数字で確かめてください。不動産投資でよくある失敗パターンと、事前にできる確認、区分マンションと一棟物件の違いもあわせてお読みください。
出典
- 国民生活センター「20歳代に増える投資用マンションの強引な勧誘に注意!」(2019年3月28日)
- 国土交通省「賃貸住宅管理業法 制度解説」、「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」(令和2年10月16日策定)、国土交通省・消費者庁・金融庁「賃貸住宅経営に関する注意喚起のリーフレット」(2020年11月18日)
- 最高裁判所第三小法廷 平成15年10月21日判決(平成12年(受)第573号)
- 国税庁 タックスアンサー No.1370、No.1391、No.3261、No.3208、No.3211
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査」
- 宅地建物取引業法 37条の2、47条の2、消費者契約法 4条(e-Gov法令検索、消費者庁)
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